「国際特許」というものは存在しませんが、世界各国へ一括してひとまず出願することはできます(PCT出願)。

 

 

 

 

外国出願で最も費用と時間のかかるプロセスが翻訳です。そのための時間的余裕をとれるのがPCT出願の大きな利点です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意匠や商標の国際登録出願は、出願時だけでなく登録後の維持も含め、コストカットの極めて有効な手段です。

 

 

 

 

 

 

 

(注1)「国際特許取得済み」というセールストークは、悪意のない間違いでなければ胡散臭い話だと思って下さい。

 

 

 

 

 

 

(注2)多くの場合は、日本出願に基づく優先権を主張してPCT出願を行います。日本出願について早期審査請求すれば、PCT出願のときにはすでに日本特許の登録済みの可能性もあります。

 

 

 

 

 

(注3)特許庁が各地域の代行機関を窓口に運用する助成金制度や、東京都の制度が知られています。前者は後者より期間の制約が大きく、かなり前もってスケジュールを立てておかないと活用が難しい面があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(注4)ハーグ協定の加盟国数は2016年3月現在50であって先進国が多く、中国やASEAN諸国等は未加盟です。しかし、先進国の市場でアジア諸国の製品と競う(場合により模倣品と戦う)ことを考えれば、大いに利用の意味があります。

国際出願・登録 Q&A

特許・実用新案、意匠、商標のそれぞれに、国際出願や国際登録の制度が設けられています。経済のボーダーレス化が進む中で、国内だけでなく国外の権利を取得することが(大企業だけでなく中小・ベンチャー企業にとっても)ますます重要になっています。このページでは、それらの制度の概要をご紹介します。

 No.  Questions  Answers
 1  有望な技術で「国際特許」を取得したという話を聞くことがあります。「国際特許」とはどんな制度ですか?  「国際特許」という呼び方は正確ではありません(注1)。特許等の産業財産権は国ごとに付与されるのがルールで、1つの「国際特許」が国際的に(複数の国で)通用するという仕組みは存在しません。外国で特許をとる基本的な手順では、各国へ個別に出願します。それを一括して世界各国に出願できるようにした制度が「国際特許出願」の制度です(制度を定めた条約の略称からPCTと呼ばれます)。
 2  国際特許出願(PCT出願)をすると、世界各国で特許をとれるのですか?  特許をとれるかどうかは、各国での審査次第です。PCT出願の後、出願人が一定期間内に移行手続をとった国(指定国)でそれぞれ国内審査が行われます。A国では特許されたがB国では拒絶ということもあり得ます。
 3  では特許をとりたい国へ個別に出願するのと、結局同じことですか?  個別外国出願との大きな違いは、PCTでは指定国の選択や翻訳のための時間的な余裕をとれることです。ふつうは日本出願から1年以内に優先権主張をともなって外国に出願するため、個別出願ではその時までに出願先の国を選び翻訳を用意しなければなりません。PCTの場合は日本出願から1年以内に日本語で日本の特許庁にPCT出願し2年半以内に指定国を選んで翻訳文を用意するので、多額の費用を要する外国出願の費用対効果を慎重に検討することができます(注2)。
 4  PCTにそのほかのメリットはありますか?  PCT出願から3か月ほど後に、「国際調査報告」が得られます(日本からのPCT出願ではほとんど日本の特許庁が国際調査を行う。)。この報告には先行技術文献の有無が示され、その後に出願を補正する機会もあるので、指定国への移行までに特許の可否の見通しを得たり高めたりすることができます。
5  費用の面ではどうですか?  PCTで指定国の国内審査への移行後に発生する費用は、各国の印紙代と代理人の費用です。これらは各国個別出願の場合も基本的に変わらないので、PCT出願する時点での費用(印紙代+日本の弁理士費用)の20-30万円分だけ、PCTの方が余分にかかります。
6  では、個別に出願する方が費用対効果の面で有利ですね?  そうとはいえません。外国出願は大仕事なので、時間の余裕や国際調査報告から得る見通し等はたいへん貴重です。個別出願では短い期間に出費が集中するため、その負担感が軽くありません。また、中小企業の国際出願に対する公的な助成金の利用でも、期間の長いPCTの方が作戦を立てやすく有利です(注3)。
7  費用の絶対額はどうですか?  国ごとの費用はまちまちですが、ごく単純にいえば(翻訳を含む国ごとの費用の平均)×(指定国の数)+(PCT出願時点の費用)となります。典型的な米・欧・中の指定だけでも、数百万円に達します。しっかりとした事業の計画や、助成金の利用等を含む入念な資金計画が欠かせません。
8  意匠の国際出願という制度はありますか?  ハーグ協定という国際的な取り決めに基づいて、意匠の国際登録出願をすることができます。そのほか、特許の場合と同様に、各国へ個別に出願することも可能です。
9  ハーグ協定は、特許のPCTと同じような制度ですか?  指定国への移行手続は不要で、国際事務局(世界知的所有権機関、略称WIPO)が登録簿を管理する点がPCTと違います。出願人は願書で対象国を指定し図面等をそろえてWIPOへ直接(インターネット経由で)出願することができ(自国の特許庁経由も可)、WIPOでは実体的な審査を省いて出願意匠を登録します。
意匠は実体審査をする国としない国があり、出願で指定された審査国はWIPOから登録の通知が来たら独自に審査してその国での登録又は拒絶を判断します。その結果はWIPOへフィードバックされて登録簿に記載されますが、どこかの国で拒絶されても国際登録自体は維持されます(5年ごとに更新、最長存続期間は国によるが最短15年)。
10  ハーグ協定の仕組みを利用するメリットはありますか?  大いにあります。最初の願書を英語(又はフランス語かスペイン語)で書けばそのほかの翻訳は不要です。権利化に自信があれば日本と外国を含めて指定することにより、日本出願も外国出願も一度で済みます。印紙代は指定国ごとの額を合計してWIPOに支払いますが、各国への個別出願の場合に必要な出願時の現地代理人の費用がかからないので、全体では個別出願よりも相当に割安です(30-40%の節約も可能)。さらに複数意匠の一括出願・登録を各国分まとめて一元管理できるので、登録後の維持管理負担を大きく減らせます(注4)。
11  商標の国際出願という制度はありますか?  マドリッド協定の議定書という国際的な取り決め(マドリッドプロトコル、通称マドプロ)に基づいて、意匠の国際登録出願をすることができます。そのほか、特許や意匠と同様に、各国へ個別に出願することも可能です。
12  商標の国際登録はどのような仕組みになっていますか?  意匠のハーグ協定のように、出願人は自国の特許庁又はWIPO国際事務局へマーク、商品・サービスの指定及び保護を求める国の指定を願書に記載して出願します。ただし、自国ですでに登録又は出願されていることが要件で、この点がそのような要件を求めない意匠のハーグ協定とは異なります。国際事務局は方式審査の後に出願商標を登録し、各指定国に通知します。指定国はそれぞれ実体審査を行い、保護を認めるか又は拒絶するかを国際事務局に通知します。
13  マドプロの仕組みを利用するメリットはありますか?  意匠の国際登録と同様に複数国への出願及び登録を一括管理することができ、費用も割安になる(個別に出願した場合の現地代理人手続が不要になる。)ことから、使い勝手のよい制度です。ただし、基礎にした自国の出願又は登録が拒絶や無効で消滅すると、国際登録も消滅することになります。